INDEX
「THINK & TASTE FIRST PLACE」の一環で開かれた「発酵スナック」。知らないもの同士も入り混じり、繰り広げられる会話に耳を傾け合うスナックのように、寺本りえ子さんの発酵料理を待ちながら、カジュアルな雰囲気で対話が進みます。
スナックお品書き
- 米粉のケークサレ(インゲン、ズッキーニ、パプリカのぬか漬け入り)
- 菜の花とイチジクのぬか漬けの白和え
- ポテトサラダ(卵ときゅうりのぬか漬け入り)
- 紫キャベツのザワークラウト
- 原木椎茸の豆味噌炒め
- 宮崎県五ヶ瀬町のさしみこんにゃくを、自家製酢味噌で
- かぶとラディッシュの、ピンクのべったら風
- 自家製豆板醤の回鍋肉
- 鯖のビリヤニ
谷尻さんと岡村さんは、同世代二人。歯に衣着せぬもの言いで、自分の考えはこう、ときっぱり明るく伝える谷尻さん。建築設計にとどまらず、建築全体を、飲食や宿泊など、サービス運営までデザインし、自社事業として展開するエネルギッシュな活動で注目を集め続けています。同じ業界に身を置いてきた岡村俊輔さんは、谷尻さんの活躍を「なんかたくさんの建築家で交通渋滞している横を、一人ピューっとバイクで行っちゃう、みたいな、変わった人が出てきたという感じがしましたね」と見ていました。
シンプルでプリミティブな「なぜだろう」から始まる谷尻さんのロジックは、世の中を冷静に突き、この日も笑いと共に場を大いに沸かせました。
谷尻さん:僕は、ずっと発酵食を食べて育ってる。おばあちゃん子だったので。なんでも手づくりする人で、食卓に並ぶ料理はほとんどが黄土色。子どもの頃は嫌でしたよ。もっと緑もあるドレッシングとかかける料理も食べたかった。たまには洋食を食べたいと言うと、カレーが出てくる、そんな家でした。でも発酵食のおかげで、健康の下地ができている感じがする。なんか元気です。風邪をひいてもひと晩で治る。
寺本さん:私は実家が宮崎県の五ヶ瀬町というところのお寺で、家に漬け物を保管する小屋があって。母はぬか漬けもつくっていた。大人になってしばらくは不摂生で生きていたけれど、この10年、自分でぬか漬けをつくるようになってからは本当に大病知らず。
世代としての使命感
この3人は、暮らしの中に手づくりが身近にあった世代。岡村さんはそのことに、ある種の使命を感じていると言います。
谷尻さんと岡村さんは、共に70年代生まれの同世代です。岡村さんは、二人が中学生時代を過ごした1980年代の「ブラウン管」に、一枚のグラフを映し出し、日本社会の大きな前提を差し出しました。
岡村さん:これは日本の人口推移のグラフです。このブラウン管が現役だった80年代はまだ人口が増え続ける只中にあったけど、2000年を過ぎ、これから急激に人口が減っていく。これまでの100年とは全く違う100年がこれから来る。確実に来る未来をどう考えるか。
拡大路線の社会と、縮小する人口に合わせてリサイズする社会、どちらも体験していく世代。生活の多くを自らの手で生み出してきた祖父母世代の生き方を知りながら、一方で機械化を享受し、AIと共生もする世代。だからこそ、岡村さんは「自分たちには、20世紀の答えを一度整理し、未来を再定義する使命があるのではないか」と語り、この場「FIRST PLACE」を思考の“スタート地点”として位置づけて、さまざまな立場の人たちと、考えを交えています。
五右衛門風呂と資金調達
岡村さん:谷尻さんは、どんなこども時代だったんですか。
谷尻さん:広島の三次市という田舎で高校まで育ちました。家から歩いて1−2分のところに川があったから、小学生時代は家に帰ったら釣りに行く毎日。中高はバスケばっかり。
岡村さん:それがなぜ建築のほうに?
谷尻さん:家がボロくて。こんなボロい家から抜け出したい、と言うのが、建築に向く初動だったと思う。風呂は五右衛門風呂で、夕方になると薪をくべて風呂を沸かすのが自分の役割。そんな家に住んでいる同級生はいなくて、なんでうちだけ、と本当に嫌でしたね。小学校の頃には「大工になってお城を建てる」と言ってました。高校に入った頃、家はリフォームしたけど自分の部屋がなくて、倉庫みたいな場所を父親と二人で半年かけてトントンやって、部屋を作った。それで、ものづくりの面白さをね。
岡村さん:僕も中学の時に家を建て替えたのが、建築に向かうきっかけの一つだったかもしれない。その頃、街もどんどん変わっていった。CDで音楽聴いて、テレビも面白くて。
谷尻さん:僕はそういうのをあまり知らないというか、田舎だったのもあるし、忙しくて。親からお小遣いをもらうのが嫌で、朝5時に起きて新聞配達してたから。授業は寝るかサボって、あとはバスケ。それを中高6年間。それでバッシュ(バスケットシューズ)も買って。
必要なものは自分で調達するバイタリティ! したいことがあったら、どうできるか考えて、まず自分でやる。その姿勢は、現在、吉田愛さんと共同主宰するSUPPOSE DESIGN OFFICEで、建築にとどまらず、自社運営で食や滞在、宿などのサービスとともに建築をデザインしていく態度にも通じます。
ゲームチェンジを考える
「ゲームチェンジを考えるのが好き」
それは子供の頃から変わらない、谷尻さんの「コツ」。自分にしかできないこと、勝てない場所はどこかを常に考えていたといいます。
谷尻さん:バスケだったら、スリーポイントラインから1m離れたところからシュートを打つ練習をしてた。スリーポイントラインは、自分がシュートを打つことを相手に教えている線でもあることに気づいて。線がないところからシュートを打てば、邪魔されない自由が手に入る。それは、背が小さくて、人より運動能力が優れているわけでもない僕が、自分にしか勝てない場所ってどこなんだろうって探した結果だった。すごいネガから生まれているというか、ストレスの中でたどりついた答えなんですよね。
群れから離れ、競わず、一人勝ちの場所を探す。
谷尻さん:建築業界も同じで。建築の大学を出て、建築事務所を出た優秀な建築家には、いくら追いかけても追いつかない。大学を出ていない自分は、若い頃はそれで悲しい気持ちになったけれど、自分だけの見方があって、自分らしいやり方があると気づいた。難しいことばかり言っていないで、自分は建築の楽しさを伝えるのに、社会に通じる言葉を持ってる。当たり前だと言われることも、本当にそうなのかなと考えて、もっといいことを見つけられる。どんどん村の中に入って行くと負けちゃうから、もう、バスケットと同じように1m離れて村を見ればいいなって言う感覚なんですよ。
それは岡村さんも同じ。「建築の産業の中で仕事をしていたら、より多く、より稼ぐというベクトルからいつまでも抜け出せない」と独立。「今までと同じではいけない」と痛感し、考え続ける二人。
未来の都市の風景をプレゼン
二人は、建築の未来をどう考えているのでしょうか。
岡村さんは、「これからは“分解の時代”なのでは」と語ります。
岡村さん:これまでの大量生産・消費の延長ではなく、つくってきた膨大な人工物を、どう使っていくか。壊すのではなく、価値を変換しながら使っていった先に、ゆっくりと次の時代につなぐ、という意味での”分解”。
岡村さんはそれを「発酵」のプロセスに例え、「いい分解の先には、腐敗ではなく、熟成がある」と未来への希望を表します。
岡村さん:街を見渡せば、もうこれ以上つくらなくていいのでは?と思うほど、建築が増え続けている。とはいえ、つくる仕事はなくならない。これまでの建築とはまた形を変えながらつくっていく必要があって、今はちょうどその分岐点にいると思う。
飽和状態と世間で言われる風潮に対して、谷尻さんは「つくることが悪で、つくらないことがこれからの時代だ、というのは自分の中ではピンとこない」と言います。
谷尻さん:問題は、つくることにあるのではなくて、すぐ壊されること。長く残るものをつくればいい。つくるのにどういう必要性があるのか、意味があるのか、ということを、僕らは考えなければいけない。
谷尻さんは、独立したばかりの2000年ごろ、「未来の都市のあり方」についてまとめて、プレゼン資料をつくったことがあるそうです。
谷尻さん:独立して暇だった頃、頼まれもしないのに(笑)。これから人口が減るのに、建築を増やして床面積がどんどん増えている状況が変だと思って、都市の減築をするプランをつくった。20階建てのビルを10階建てにする、とか。その分、床を抜いて天井高を2.5mではなく5mにしたり、中間層を抜いて、そこに公園や畑をつくったり。
自然に囲まれて育った原体験の記憶がある。それを生活から切り離された自然として配置するのではなく、建築の中に含めて、内外を完全に区分しないあり方を、谷尻さんは提示してきました。
谷尻さん:都市の建物の中間層に外の空間が挿入されると、風通しもよくなるし、地面がない都市に地面が増えて、環境改善につながる。屋根のある守られた外。建築においてはそういう中間領域が大事なんだと、この20年ぐらい、そればかりやり続けている。
岡村さん:中間領域は、これからの都市の減築のあり方としては本当に重要ですよね。
谷尻さん:環境やサスティナビリティの観点を取り入れても、結局は「文句を言われないため」のアイコン的な環境になってしまうことが多い。グリーンを置くことがイコール環境ではないし、電気の通っている土地でオフグリッドの家を建てることがエコでもない。わざわざそうすることで環境コストを上げているとしたら、それは意味がない。
「もっと本質的に、環境とは何か、ということを考えるべき」だと言います。
出どころのわかるものづくり
谷尻さんは3年ほど前から、北海道に自宅をつくっています。
谷尻さん:普段、設計をしていると、材料の出どころが分からないままできているものが多い。でもそれって、食にたとえると、生産者が分からない材料でつくる料理と同じ。出どころが全部わかるもので成立する場所づくりを、建築家としてやらないのはまずい、やっておく必要がある。
そうした問題意識から、自らの実践として、自宅をつくり、「村をつくろう」と、周囲に頼れる仲間を巻き込み、林業と関わり、食べ物も土づくりから始めて……出どころのわかる暮らしづくりを進めているそうです。
岡村さんもまた、同様の考えをなどやで日々体現し、ここFIRST PLACEもつくりました。
岡村さん:新品はほとんど使っていない。ここにあったものを使い、近場で手に入るもので完結させる。
二人とも、「これはどこからきた、どういうものなのか」を知っておこうとするスタンス。自らの暮らしを組み立てる上でも、建築を進める上でも、循環とローカリティを重視した建築のあり方です。
素朴な問いをずっと続ける
どんなことも、「本当にそうだろうか」「それはなぜだろう」と考え続けているという谷尻さん。その上で、ビジネスの組み立てを「右脳先行、左脳後追い」という言葉で説明します。
谷尻さん:絶対これをやりたいと思ったら、まずその感情で純粋に行動します。ただ、感情だけで走ると、やっぱり人には通じないから、行動の理由をロジカルに分析して、言語化する。そう言うとすごそうですけど、単純に、ライブに行ってうわー!と感動したら、なんで感動したんだろうと考える。素朴な子供みたいに、なんでなんだろう、という問いをずっと続けているだけなんですけどね。理由を何かしら分析して因数分解して、またそれを集めて再構築すれば、その感動を再現できる。僕はつくる仕事なので、再現性が必要だし、そのためには言語化して人に伝わる言葉で説明する必要がある。
自然の原理を設計に持ち込む
例えば、自然のどこが好きか、なぜ美しいと感じるのか、と。
谷尻さん:自然にはスケールがない。完成というものがなく、ずっと未完成。つまり、移ろうっていうこと。そういう自然を美しいと思う。では、建築のスケールがないように見せるにはどうしたらいいか。いつか完成してしまう建築を、完成しないもののようにするには、どう定義して設計したらよいか。そうやって、自然の中にある原理みたいなものを捕まえて、設計に落とし込むようなことを、ずっとやっています。結局のところ、自然はつくれない。だから面白い。でも、それと同じくらい感動するものをつくりたい。
普通の中にある新しさ
谷尻さんは、「感動は予定外のときに起きる」と言います。
谷尻さん:予定通りでは人は感動しない。自然って思い通りにならないですよね。思い通りにならない自然に感動する。僕一人でつくったら思い通りになって、絶対感動しないロジックにはまってしまうから、一人ではつくらない。色んな人が関わって思いがけないことが起きるほうが新しいものが生まれるし、自分の見たことがない世界にたどり着くはず。
岡村さん:予定外のことが起きると感動する、けれど、予想以上にいい、という場合でないと感動しないですよね。
谷尻さん:まあ予定外のマイナスなことやネガティブなことも手に入れるけど、それは自分が感動するためには仕方ないなと思っています。要は、思い込みや期待をいい意味でどう裏切るか。ただしそれは奇抜でエキセントリックなこととしてではなく、「普通の中にある新しさ」を探すような行為として。
谷尻さんのバイタリティは、人を惹きつけます。
谷尻さん:数は少なくてもいいから、仲間がいたほうがいい。時間もお金もあっても、仲間がいなければつまらないですからね。僕は、基本的には仕事も、関わる人がよくなってほしい、関わる会社をいい環境にしたい、と思ってやってるんです。自分がよくなりたいというより。だから、もらう以上のものを渡す。ありがとうと言われることをやる。
よい環境が、いい循環を生む。自分の人生をよくしていくことは、未来の希望を生むのだと感じる一夜でした。
GUEST PROFILE
寺本りえ子(てらもと・りえこ)
フードディレクター、料理研究家。音楽活動を経て食の道へ。発酵食やスパイス料理のワークショップの開催、出張料理をはじめ、飲食店のアドバイザー、商品開発や食育にも精力的に取り組む。2021年4月より、フリースクールで食育を担当。発酵食スペシャリスト、食育インストラクター 、フレッシュスムージーアドバイザー、ホリスティックビューティアドバイザー、漢方養生指導士初級、薬膳・漢方検定取得、きのこマイスター他、食への多彩な興味を掘り下げている。
著書に『JOY of AGING』(宝島社、2015年発行)がある。最新刊は2026年2月13日発売の『からだの中からきれいになる ぬか漬けとアレンジ発酵料理』(KADOKAWA)。
@rieko_teramoto
谷尻 誠
建築家、起業家。1974年生まれ。吉田 愛さんと共同代表を務めるSUPPOSE DESIGN OFFICEにて、住宅、商業空間、ランドスケープ、インスタレーションなど、多岐にわたり手がけ、自社事業として「社食堂」「猫屋町ビルヂング」など建築とそのサービス運営まで行う。著書に『建築家で起業家の父が息子に綴る「人生の設計図」』(三笠書房)、『CHANGE-未来を変える、これからの働き方』(エクスナレッジ)などがある。
写真/太田太朗
構成・文/森 祐子
FIRST PLACE について
「Immer Besser」(常により良いものを)の理念のもと、125年にわたる歴史の中で暮らしを見つめてきたMieleと、場づくりを軸に人の営みを考察し、交流ハブとしての試みを重ねるnadoyaによるプロジェクト「FIRST PLACE」。キッチンを据えた場をつくり、集い、交わり、共に未来を考える。
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