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ゼロからつくる、料理に生かす
前回の味噌仕込みから2か月余り、次はぬか漬けのワークショップです。
ぬか漬け。興味はあれど、毎日混ぜるというメンテナンスを前に二の足を踏む、という人も少なくないのでは? 今回は、今年2月に発売されたばかりの著書『からだの中からきれいになる ぬか漬けとアレンジ発酵料理』が好評の寺本りえ子さんに、ぬか漬けの魅力とシンプルな楽しみ方を教えていただきました。ぬか床から自分の手でつくるぬか漬け。ぬか漬けからのアレンジ料理の試食では、ぬか漬けを混ぜ込みオーブンで焼き上げたケークサレも。ぬか漬けは、和食に添えるだけではないことも、大きな発見です。
知っているようで知らないぬか漬けの個性。まずは皆で寺本さんのぬか漬けに触れるところからスタートしました。寺本さんがこの日、用意したぬか漬けは、なんと25種類。よく聞く定番の野菜だけでなく、こんにゃくや卵、干し柿やイチジクといったフルーツまで、彩豊かに揃いました。試食用に皆で切り分けます。
「ぬか床は、漬け込む野菜によっても味わいや香りが変化します。できるだけ単一の野菜ではなくて、いろいろなものを漬け込むことが、ぬか漬けの豊かな味や香りをつくります」
のっけから広がる、ぬか漬けの可能性。彩の美しさと、それぞれに広がる味わいや食感の違い。
寺本先生の愛弟子?とも言うべきぬか漬け大好きな男の子は「干ししいたけ、おいしいです」と渋いコメントを残し、「師匠が一番好きなのは?」と問われると、寺本さんは「私は、アボカドが好き。まだ硬めのアボカドの皮を剥いて漬けると、チーズみたいになるから」とのお返事。
自分に合う発酵食を見つける
そもそも、著書タイトルにある「からだの中からきれいになる」とは、どういうことでしょうか。
味噌の回でも学んだように、私たちの腸のひだをすべて伸ばすとその面積はテニスコート1面から2面分にも及ぶと言います。
「腸壁には、微生物が1.5kgから2kgも働いて、栄養を取り込んで、身体中に回すのに役立っています」
腸内フローラは、善玉菌、悪玉菌、日和見菌という3つのグループがバランスをとりながら活動する微生物の群れ。日和見菌は、善玉菌と悪玉菌の優勢なほうについて活動するので、腸内の善玉菌を増やすことが大事。
「腸が負担なく栄養を吸収するためには、発酵食を取り入れて善玉菌の餌を働かせる。ぬか漬け、キムチ、納豆や麹など、自分に合う発酵食が見つかるといいですね」
初夏に最適のぬか床はじめ
さて、いよいよ、お手製のぬか床づくりを教えていただきます。
材料
- 生ぬか(玄米を精米したてのぬかの粉)
- 水
- 塩
「完成までは一週間ほど。ぬか漬けは、玄米を精米した際に出る米ぬかに、塩と水を加えるだけでできちゃう」
この日、使用した米ぬかのお米は、「亀の尾」と呼ばれる品種改良されていない日本の在来種。精米した後に出る生の米ぬかを使います。
「よくスーパーに売っている炒りぬかではなく、生の米ぬかのほうが発酵が早く、実際に米ぬかがそのまま口に入るものをつくるので、無農薬、有機農法でつくられたものを選ぶことも大事です」
ぬか床を起こすには、気温20-25度が最適で、腐敗するリスクも少なく、適度に発酵が進むと言われています。なので、春から初夏がグッドスタート。
塩を溶かした塩水を、少しずつぬかに加えて、ちょうど良い硬さになるまで様子を見ながら混ぜていきます。ぎゅっと握ったとき、水分が指の隙間からにじむぐらいが合図。
「新米のぬかなど、その時々で水加減が変わります。漬けるとすぐ水分が出るので、素地をゆるくしないほうがいいですね」
ぬか漬けは、厳密じゃなくていい
風味出しと防虫にもなる唐辛子や出汁昆布、干し椎茸などを入れて混ぜたら、「捨て漬け」といって、食用にはせず発酵を促すための野菜を漬け始めます。キャベツの芯、ヘタや皮など、使わない部分でも。
「まずは底に、おふとんのようにぬか床を敷いて」
野菜、ぬか床、野菜、とミルフィーユのように重ねます。必ず野菜はぬか床に接している状態にして、最後はぬか床で蓋をします。
「味噌仕込みのようにぎゅうぎゅうに押し込んだりしなくていい。ぬか漬けはお菓子づくりのように厳密じゃなくていいんです。毎日混ぜるので、会話するような気持ちで、緩やかに。ただ、野菜は表面に見えているとカビてしまうので、必ずぬか床で蓋をすること」
4、5日で香りが変わる
捨て漬け野菜は交換します。まずは1日半から2日後、2回目は、さらに1日から1日半後。3回目以降は1日ごとに。それを4、5日繰り返す。
「4、5日すると、触った時にふわりと香りがして、味見をすると酸味を感じる。こうなるまでは常温に置いてください。一週間、付き合えるときに常温で仕込む。その後も普段は常温でいいけれど、最近の夏は異常だから、真夏は冷蔵庫に入れるのがよさそうですね」
そのために、保存容器は冷蔵庫に入るサイズ感を。寺本さんオリジナルの陶器甕は、高さを工夫したのだそうです。
今日が、100年の始まり
「ぬか床は、適切な手入れをすれば100年もちます」と話す寺本さん。
「今日が、100年の始まりですからね、100年後につなげてくださいね、みなさん。とにかくぬか床がおいしくなければ、おいしいぬか漬けはできません。ぬか床をちゃんと愛して、おいしいぬか床をつくりましょう」
漬けるものによっては、水分がよく出ますが、水っぽいと腐敗や風味の劣化につながるので、ぬかを足して硬さを調整します。その際は、塩も同時に足して混ぜ込むこと。
「一度水っぽくなってしまうと、もう一度発酵させるプロセスが必要になってしまうので、大ごとになる前に、ちょいちょいひとつかみずつでも、生ぬかと塩を足しておくといいですよ。野菜から出た水分にも、微生物やビタミンB群があるので、捨てずに生かしながら、ぬか床をおいしくしていきましょう。
浸かり具合の違いを楽しむ
干し柿や干ししいたけなどの乾物もおいしく浸かるし、水分も吸い取ってくれる。オクラや長芋なども、オススメ。ぬか床はさまざまな野菜や果物を受け入れますが、いくつかコツもあって。
「きゅうりの太さで、12時間。これを目安にすると、サラダ感覚で食べられるちょうどよい具合に浸かります」
大きな野菜も、きゅうりの太さにカットして入れる。レンコンの穴はぬか床で埋める(空気に触れさせない)。皮付きだとゆっくり浸かるので、長めにするなど調整を。逆に水分の多いトマトなどは、皮にところどころ爪楊枝で穴をあけて、中から種の部分や水分が出ないようにします。普段火入れして食べる食材は、できるだけ丸ごと蒸して(茹でるより栄養素が抜けない)から漬ける。葉物は、火入れするけれど、浸かるのがとても早いから気を付ける。
「ただ、浸かり具合はお好みで。厳密に考えないで、今日は少し浅いね、とか、古漬けみたいになってもいいね、というふうに、その時々の違いを楽しんでもらえたらいいなと思います」
冷蔵は寝たフリ、冷凍は死んだフリ
ぬか漬けというと、毎日かき混ぜられない…という諦めが多く聞かれます。忙しい現代人が、日常の中でうまくぬか漬けと付き合うには?
「触れないのが4日間ぐらいまでなら、冷蔵庫に。表面に塩して空気に触れないようにしておいてもいいですね。それ以上、触れない場合は、冷凍庫に。戻すときは、自然解凍で戻します」
「冷蔵は寝たフリ、冷凍は死んだフリ」。このお守りフレーズで、継続のピンチも乗り切れそうです。
朝漬けておけば、夕食の一品につながる
最後は、お楽しみの実食です。寺本さんの著書『からだの中からきれいになる ぬか漬けとアレンジ発酵料理』から、米粉のケークサレ、イチジクの白和え、ポテトサラダを。
ケークサレには、パプリカとインゲンのぬか漬けが。ポテトサラダは、きゅうりと卵のぬか漬けを。白和えは、干しイチジクと春菊のぬか漬けに、マスカルポーネを加えた豆腐で和えて。どれも、ぬか漬けのアクセントで、普段の料理に奥行きが生まれます。
「ぬか漬けは、旨味と酸味、塩味があるので、とりあえず、朝のうちに何か漬けておけば、夜の一品につながる。餃子やシュウマイの具にもなります」
ぬか漬けを、料理の幅を広げる名脇役に。今回は、ご飯やお酒のお供だけではない、新しい魅力を教えていただきました。寺本さんの近著には、まだまだぬか漬けを使った発酵料理のレシピやぬか漬けの知恵を深める対談などが掲載されていますので、ぬか漬けライフを一歩進める際にはきっとよい手助けになりそうです。
GUEST PROFILE
寺本りえ子(てらもと・りえこ)
フードディレクター、料理研究家。音楽活動を経て食の道へ。発酵食やスパイス料理のワークショップの開催、出張料理をはじめ、飲食店のアドバイザー、商品開発や食育にも精力的に取り組む。2021年4月より、フリースクールで食育を担当。発酵食スペシャリスト、食育インストラクター 、フレッシュスムージーアドバイザー、ホリスティックビューティアドバイザー、漢方養生指導士初級、薬膳・漢方検定取得、きのこマイスター他、食への多彩な興味を掘り下げている。
著書に『JOY of AGING』(宝島社、2015年発行)がある。最新刊は2026年2月13日発売の『からだの中からきれいになる ぬか漬けとアレンジ発酵料理』(KADOKAWA)。
@rieko_teramoto
写真/太田太朗
構成・文/森 祐子
FIRST PLACE について
「Immer Besser」(常により良いものを)の理念のもと、125年にわたる歴史の中で暮らしを見つめてきたMieleと、場づくりを軸に人の営みを考察し、交流ハブとしての試みを重ねるnadoyaによるプロジェクト「FIRST PLACE」。キッチンを据えた場をつくり、集い、交わり、共に未来を考える。
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