FIRST PLACE イベントレポートvol.18 「TOUCH & TASTE」Table to Farm の目指す食の未来
2026.09.17
「TOUCH & TASTE」

vol.18 Table to Farm の目指す食の未来

「キッチンから、未来を考える」をテーマに、いくつもの対話や食の体験を行ってきた「FIRST PLACE」。Mieleとなどやの試みは、これまで20組以上のゲストと共に、言葉を交わし進んできました。今回、場を共にしたのは、「食の未来」を考え続けているスーパーマーケット「Table to Farm」。手に入りにくくなっている「おいしさ」を、未来につなげる試みについてのお話です。

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きゅうりの写真

「Table to Farm」は、会員制の宅配スーパーマーケット。「米と野菜、果物は自然栽培と有機栽培。卵は平飼い、肉は放牧、魚は天然」と言うように、扱う食品を「自然のもの」ときっぱり言い切り、「素の味(もとのあじ)」と呼んでいます。それらは、「おしなべて日本に0.1%しか流通していない状況」とディレクターの相馬夕輝さん。届く野菜のほとんどは、在来種という、その土地で長く生息し、年月をかけて土地に適応してきた種。日本で育つ野菜の90%以上は、種を輸入に頼っている、という事実からも、その貴重さが想像できます。

ただ、「Table to Farm」が目指すのは、他では買えない希少な食品を扱うプレミアムスーパー、ではないようです。
彼らが見つめる「食の未来」とは? 代表の相馬さんと、などやの岡村俊輔さん、そしてキッチンでは、料理人の芳賀龍さんが猛スピードで料理を繰り広げ、ジリジリと焼き付ける音やゴリゴリと擦る音の効果音を挟みながら、3人の対話が進みました。

相馬さんの写真

相馬:僕らの選び方は、まずは試食をしておいしかったもの、というシンプルなところから。生産地や生産方法などの情報は見ずに、ブラインドで数十種類、時には100種類でも集めて試食する。何度も食べて、1つの食材を選ぶのに11か月ほどかかります。

活動開始から本格オープンした2025年まで4年間かけて食品の選定を重ね、今も同じメンバーで毎週試食を続けているそう。

相馬:選定のメンバーは、味覚の好みも育ちも全然違うのですが、何度も食べ続けるうち、自然と集約されて2、3種類に絞られます。候補を絞り込んでから生産者を実際に訪ねると、味で選んでいるはずなのに、なぜか味覚ではない部分で共通項がある。

岡村:おいしいって、すごく曖昧な感覚ですよね。でも、本当はすごく奥深いものがあるんだろうとは思っていました。その、味覚だけじゃないおいしさ、というのは、具体的に何か言語化できることがあるんですか。

相馬:ファクトのように言えることはなくて経験値でしかないのですが、例えば味噌は、伝統的な天然醸造のつくり手が全国に何百社といる業界ですが、試食の結果、3つに絞られた味噌はどれも、全国に3社しかつくり手のいない、空気中にある野生の麹で醸造する方法でした。塩や醤油など、さまざまな食品で似たような経験が重なり、もしかすると、自然の力をものすごく生かしたものを、私たちの身体が、選んでいる、ということなのかもしれない、と。食品の説明には、そうした「おいしさ」の背景を表記します。

動画の写真

相馬:面白かったのが、味噌を選んでいた時、最初は故郷の味を選んだメンバーがいて、やはり味覚は記憶や経験が強いんだと話していたのだけど、試食を重ねたら、違うものをおいしいと言い始めたんです。何度も繰り返し食べていると、口の中でおいしい、と言うのを超えて、身体にスッと入ってきて、身体が軽くなってくるような味がすることがあります。腸とか、細胞レベルで喜んでいる感じ。脳が信号を送ってくれている感じ。そう思うまで食べ続ける、と決めています。

岡村:おいしいって、まさしく脳の信号ですもんね。ドーパミンが出て、生物としてそれをやり続けなさいという脳の指令。その信号が、わかりやすく「おいしい」に変換されて、もっと食べたい、につながる。

相馬さん岡村さんの写真

「Table to Farm」が目指すのは、”Farm to Table”、産地から食卓へ、新鮮で安心できる食材を届けるだけではなくて、”Table to Farm”、食べ手も生産の現場を支える、「支え合う」仕組みづくり。

相馬:一流のレストランがどんなにスペシャルだと認める農家さんでも、多くはそんなに収入を得ていない。この矛盾を変えていかないといけないという気持ちはあります。レストランは、サービス料をもらうけれど、いい食材が料理の価値を上げたならば、農家にも価値が新たに加わっていくような、生産者に還元できる仕組みをつくれたら、と思う。

岡村:今の資本主義を真っ向から否定するのではなくて、そのふちを出たり入ったりしながら、一つずつ何か挑戦をしていくと、新しい仕組みができあがっていくんじゃないかと考えたりしてます。

芽の写真

相馬:農家は、今の平均年齢が70代手前ですが、どんどん高齢化してつくる人が減っていく中では、大規模化やスマート農業で面積を増やすしかない、という状況です。この高齢化は、あと10年で劇的に進むはず。在来種の自然農法や地域の郷土料理などの食文化を引き継ぐリミットは、せいぜいあと5年から10年だと思います。

岡村:我々は戦中戦後世代と直接接したことのある、おそらくは最後の世代。今の40代、50代が、彼らの知恵を引き継いで、未来につなげることができる、という意味でも使命を感じます。

相馬さん岡村さん芳賀さんの写真

相馬:若い料理人の方たちは、郷土料理や在来の野菜に関心を持っていると感じています。彼らが、今の時代を解釈しながら、例えば郷土料理のようなものをアップデートしていく。それが必要で、時代と共に変化し続けないと、大事なものが残らない。その意味でも、料理人の存在はこれからとても重要だと思っています。

芳賀:僕は35歳ですけど、Table to Farmのような考え方を、当たり前のこととして考える同世代の仲間や後輩は多いと思います。目指すのはお金儲けではなくて、お金は大事だけど、より本質的に生きたい。この感覚は、これから飲食業界でアベレージになるって思っています。その5年や10年に間に合うのか、という話はありますが。

芳賀さんの写真

岡村:飲食の人たちは、感覚的に鋭い気がする。食材と接しながら、どこでつくられたか、その先につくる人がいることを意識する。この世界の本質みたいなものを、一番肌で感じながら、毎日暮らしているんだろうなと思いますね。

芳賀:そうですね。新しい、かっこいいアルバム見っけた、みたいなノリで、この農家さんのアレ知ってる?とか。それを使うのは当たり前だよね、と。それを、これからお店を出していく世代が、それぞれのアプローチで伝えていく。だから、僕はあまり悲観的には見ていないです。

芳賀さんの写真

岡村:農業は、若手は増えているんですか。

相馬:若い世代も増えているとはいえ、やめていく人も多いです。意識を高く持って情報を得ても、その土地に合った種でいい野菜を育てるまでには時間がかかる。買ってもらえるようになるまで、生き抜かなければならない5-6年が絶対存在するんです。

生産現場のリスクを生産者だけが負うのではない仕組みが必要、と相馬さんは試みを続けています。その試みを含め、食の未来のために「Table to Farm」が掲げるコンセプトが、「Community Supported Foodculture(CSF)」。

相馬:「Community Supported Agriculture(CSA:地域支援型農業)」という考えは、収量に関わらず、前もって購入費を支払う契約栽培のようなかたち。欧米を中心に広がっています。僕らは、それを「農業」から「食文化」全般にまで考えを広げて、食べる人が、より広い意味でつくることに関わり、支え合う中で食文化を豊かにするフードシステムを目指せたら、と考えています。

食べ手は、事前オーダーや前払いによって生産者の当面の収入を保証したり、つくり手の実作業に関わる機会を得たり。それぞれに関わり方を選び、「つくる」を支える。それにより、食べ続けたい「素の味」が途絶えず、安定して届く手助けになる。「つくる」と「食べる」が、切り離されない循環の形です。その中には、相馬さんが「日本の食卓に残したい」と語る種の保存に向けた取り組みもあります。

相馬さんの写真

相馬:今、始めているのは、ある牛肉のプロジェクトです。一般的な「和牛」は、西洋種との掛け合わせがほとんど。日本の本当の純血種は天然記念物にもなるほどで、食用では、「但馬牛」と、岡山県の「竹の谷蔓牛」だけ。全国でも60頭ぐらいしかいない、その竹の谷蔓牛を数頭、たった一人で50年ぐらい飼育を続ける80代の平田さんという方がいます。これがめちゃくちゃおいしいんです。赤身のお肉にもちゃんと評価体系をつくって、価値づくりがきちんとできれば、むしろ赤身のほうがみんな食べたいという気持ちは高まる気がします。

芳賀:間違いないですね。

相馬:種の保存として、500頭に増やす計画を立てています。担い手を増やしたい。ただ、飼育するのに一般の牛が2-3年かけるとすれば、この牛は4-5年かかるので、出荷まで現金化されないのは、畜産農家さんとしては厳しい。だから、消費者が先にお金を払って、用意できたらお肉が届く、という順番に変えるために、新しい担い手のもとで育てる試みを始めています。

そんなふうに、未来に向けた取り組みを重ねながら、「スーパーマーケット」として、ウェブサイトではつくり手の現場のレポート写真や映像を豊富に揃え、情報も徹底的に開示する。さらに料理家による家庭料理のレシピを揃え、つくり手と食べ手の距離をさらに縮め、つないでいます。

料理の写真

相馬:今日もこうして芳賀さんが料理してくれて、それがとにかくおいしい。でも芳賀さんは、この素材がめちゃくちゃいいから、僕は料理してないぐらいでいい、と。素材がいいと、家での料理が簡単になる。野菜の皮も、ちゃんと育てられて栄養価も詰まっているから剥かなくていい。それってすごいことだと、改めて思います。
納豆だって、スーパーに流通しているものは賞味期限がおよそ2週間で、その後は硬くなっていく。けれど稲藁で発酵させる納豆は、届け先でも菌が生きて、熟成が進むだけ。2週間以降がおいしくて、ピークは3~4週間です。賞味期限は一応2週間と表記しますが、4週間ぐらいまで、味の変化を楽しめる。賞味期限は自分が決めたらいいやん、と。そこが変わればフードロスはだいぶなくせる。自然のものは、そんなことを教えてくれるんですよね。

芳賀さんの写真

芳賀さんはこの日、Table to Farmの食材と調味料で即興料理を仕上げていきました。

玄米を浸水せずに炊けるという雲井窯の信楽焼の土鍋で、蓋をせずに火をかけて炊き始めたのは、在来品種の玄米「亀の尾」。玄米の食べ応えの奥には、さっぱりとして軽く、さまざまなおかずと合わせやすい味わい。これに冷や汁をかけて食べます。

お米の写真

九州・宮崎の郷土料理、冷や汁は、野生の酵母を使ったと話された味噌と「こんぶ土居」の出汁を合わせます。塩揉みにした山形の固定種「半白きゅうり」、そこに火山灰の中で熟成させた長崎の鯖の焼き身をほぐし入れて。灰に余分な水分や臭みを吸着させる「灰干し」のおいしさ。

冷や汁の写真

「冷や汁は、材料を合わせるだけだから、Table to Farmの良さを一番表しているかもしれない」と芳賀さん。
素材が良ければ、シンプルに丁寧に味を重ねていくだけでも、十分においしい、ということ。

空芯菜炒めは、おいしいなたね油を使い、塩と醤油をチラリと垂らしただけ。にんにくも使わずともコクのある味わい。ズッキーニも炒めたら同じズッキーニで作ったクリームと合わせて食べる。
それに、平飼い卵の目玉焼きと、長崎対馬のジビエ「ぼたん(猪)」。対馬は土地の9割が森。その広葉樹のどんぐりを食べて育った、脂身の甘み。バラ肉をジャっと焼いて。

相馬:森には春は筍、夏はイチゴ、枇杷はそこらじゅうに落ち放題で、食べるものに何も苦労していないものの命はやはりとってもおいしくて。野生の肉は、もうまさにこの環境そのものの味です。

料理の写真
料理の写真

新潟の山林を駆け回り、樹下の腐葉土を掘り返してみみずや野草を食べて育つ名古屋コーチン。野生に近い環境で育ち、ビタミンや抗生物質は与えず玄米を餌とした健康な肉。

相馬:この名古屋コーチンは、新潟の森を駆け抜けて森のものと、玄米を食べて育ったオス。普通、オスは臭みが出やすいので、だいたいはひよこの段階で殺処分されるんです。でも、オスは成長が早いので餌代も抑えられるし、シャポンと言って、去勢手術をしたオスは臭みも出ない。養鶏家にとっての良さもあって、そうやって育てられて、おいしいなら、と。

それをきのこと合わせてチキンフリカッセのように煮込みで、またグリルで力強い旨みを味わいます。

芳賀さんの写真
料理の写真

ガスパチョ。「フルーツトマトがとてもおいしくて、それが9割。あとはパプリカときゅうりと玉ねぎ」。
ミニトマトの蜂蜜マリネを乗せて、ぎゅっと濃縮された味に。

人参のラペのようなサラダ。ドレッシングに、15玉分のみかんを絞り込んだ「HIKEの皮ごとみかんジュース」や、甕仕込みで米と富士山の伏流水だけで仕上げた「心の酢」を使い、カボスや蜂蜜で奥行きを出した味わい。

食べながら、芳賀さんに味付けのコツを聞く人もいます。「これは、この薄口でおいしいお醤油をちょっとかけて」「これは焼いただけ」「あ、少し玄米余ったから、リゾットつくります!」とキッチンカウンターを囲み、皆と会話しながらどんどん料理をつくります。

大盛況の食事タイムの様子の写真

みんなが「素の味」と芳賀さんの料理の掛け合わせに驚き喜び、大盛況の食事タイム。「食べること」の喜びを共有して、誰が、どんなふうにつくると、このおいしさにつながるのか、という背景に想いを馳せる時間となりました。

「Table to Farm」は、スーパーマーケットであり、日本の自然に息づく食文化を伝えるメディアであり、食べ手としては、一見、切り離された生産現場へとつながるドアでもあります。「おいしい」をきっかけに、一歩踏み出し、つくり手との好循環に関わるためのドア。未来のつくり方を、また一つ、見ることができました。

大盛況の食事タイムの様子の写真

PROFILE
TALK
相馬 夕輝(あいま・ゆうき)
「Table to Farm」発起人・ディレクター。滋賀県出身。自然と文化と生き方を丸ごと味わう「とびっきりのおいしい食文化」を探求し、それらを社会、環境、経済も含めて有機的に結ぶコミュニケーションを担当。旅を通して交流する中で、次の時代のフードシステムを見直す道を探索中。著書に『つづくをたべる食堂』(d BOOKS刊)がある。

芳賀 龍(はが・りょう)
東京での修行を経て、京都「monk」にて2年間、今井義浩氏に師事。在職中にデンマークの「Kadeau Copenhagen」での研修。2022年より「noma」へ。部門シェフとして2025年1月まで在籍する中で、”time and place”の哲学を深く学ぶ。現在は”A touch of pure Japanese”―日本人としての新しい料理を探求、表現すべく国内外を視野に開業準備中。

岡村 俊輔(おかむら・しゅんすけ)
建築家・などや主宰/STUDIO nadoya代表。建築設計事務所、建設会社を経て2018年に独立。2020年に、恵比寿と代々木上原の古い一軒家に手を入れながら活動体としての場「などや」を開く。2022年、「などや恵比寿」は契約満了につき活動を終え、新たに「などや島津山」を開設。「都市における自然と生」の姿を模索する。

Table to Farm
https://tabletofarm.jp
@tabletofarm.official

FOOD:芳賀 龍 @ryohaga__
DRINK:江里 鉄平 @tpp0208

写真/太田太朗
構成・文/森 祐子

FIRST PLACE について

「Immer Besser」(常により良いものを)の理念のもと、125年にわたる歴史の中で暮らしを見つめてきたMieleと、場づくりを軸に人の営みを考察し、交流ハブとしての試みを重ねるnadoyaによるプロジェクト「FIRST PLACE」。キッチンを据えた場をつくり、集い、交わり、共に未来を考える。

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