廃材から、Mieleとnadoyaをつなぐ
2025.01.23
vol.4「マテリアルデザイン」

廃材から、Mieleとnadoyaをつなぐ

2024年10月に動き出した「FIRST PLACE」。古い一軒家にミーレのビルトイン家電を組み込み、新しい場として再生させていくプロジェクトです。ミーレの機器、などやのつくる場。共に衣食住の専門家として、未来に向けて、何ができるのか。両者がタッグを組み、対話と食の交わる豊かな時間をつくりながら、思考を深めています。FIRST PLACEの空間には、ミーレとなどやの交わりを表すマテリアルがところどころに配されています。デザイナー狩野佑真さんをゲストデザイナーとして迎えて生まれたマテリアル。今日は、その背景を追いかけます。

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淡いグレー地に、さまざまなかたちと色が踊るタイル。これは、FIRST PLACEの空間のためにつくられた素材です。ミーレの役割を終えた機器から出た廃材や、などやの、家屋を解体する過程で出てきた土砂や庭から採取した枝葉などが断面に現れて、タイルの図柄になっています。これをデザインした狩野佑真さんは、家具などのプロダクトデザインから店舗や展示などの空間設計まで、さまざまな領域で表現をするデザイナーです。

マテリアル開発から参加するプロジェクトが多いという狩野さんは、廃材や錆といった、一見、価値が下がる一方だと見られる方向の変化にも美しさや価値を見出すデザインにも多く取り組んでいます。
狩野さん「時代としても、サステナブルとかアップサイクルというキーワードがありますが、本当にやる必要があるのか、そこに矛盾はないか、といった問題もあると思います。そこに文脈やストーリーをつくりながら、プロジェクトとしてどう価値を与え、デザインとしてどう美しくつくるか、ということを考えています」 その狩野さんに、FIRST PLACEの場を構成するマテリアルのデザインに参加してもらいました。
空間全体は、などやの岡村俊輔さんがデザインし、つくりあげます。そこにどのようにマテリアルを含めるか。狩野さんはプロジェクトのスタートから会話に参加し、方向性を探りました。

狩野さんのアイデアスケッチ
狩野さんのアイデアスケッチ

今回は、FIRST PLACEのプロジェクトについて話し合う中で、などやの岡村さんから「20世紀の生産と消費の時代を経て、これから腐敗へと進むのか、あるいは分解からうまく良い発酵を促して、熟成した社会へと向かうのか、21世紀の今は、その分岐点にある」という発言がありました。
「未来を、考える。」というプロジェクトの大きなテーマの中で、「大量生産と消費拡大」という20世紀を経たこれからの社会を、生物の「生産、消費、分解」の生態系の循環サイクルになぞらえて語られたものです。
それを受けて、狩野さんは、そのストーリーがシンクロするマテリアルのアイデアをつくります。
「ミーレとなどやにもともとあった素材を収穫し、分解して、料理するように、マテリアルをつくる」。
狩野さんのアイデアスケッチを見たとき、ミーレスタッフはとてもわくわくしていました。
狩野さん「もともと、ForestBankというプロジェクトで森林の枝や葉っぱ、木の実を混ぜ込んだマテリアルをつくっていました。その技法を生かして、混ぜ込むものをミーレのプラスチックの端材と置き換えてつくれないかという発想から、制作を進めました」 タイルのように使える板状のマテリアルをつくります。

素材を探している写真

早速、素材探しにミーレの物流倉庫がある横浜の大黒ふ頭へ。そこには、使われなくなった機器を分解し、廃材を取り出してパーツごとに仕分けしたエリアがあります。新しいマテリアルに生かせそうなパーツを見つくろいます。

ミーレ機器のパーツの写真

狩野さん「ミーレのパーツは、白、グレー、黄色。機能ごとに色が決められています。パーツのつなぎ目となるタッチポイントが黄色と決められている、というお話があって、いいな、と。マテリアルの中でも、やっぱり黄色がポイントになっていますよね。マテリアルになった時に、初めて見るはずなのに、この3つのカラーが見えると、ミーレユーザーが見れば、どこかミーレのものだと感じ取れるんじゃないかと思いました」 マテリアルに、ミーレ機器のアイデンティティが埋め込まれました。

そして、解体中のなどやへ。などやでは、家屋の一部を解体する過程で、土壁が崩れて出た土砂や木片を拾い集めました。60年以上前の家屋で、まだ竹小舞(土壁の下地)を組んでできた土壁は、崩れてもほぼ自然素材だけ。

などやの家屋の写真 などやの家屋の写真
土砂を手ですくっている人の後ろ姿の写真
土を採取している写真 落ち葉や枯れ木を集めている写真

また、80年以上、建物の下で日の目を浴びずにいた土も。
今回は、解体の過程で、家屋の床板をめくると、床下3m近くの地下にひび割れたコンクリートが現れました。それがおそらく80年以上前に建てた当初の家の基礎床。FIRST PLACEでは、象徴的なキッチンカウンターの側壁にそのひび割れたコンクリートを当てこみました。コンクリートを取り出したあとに残された土床は、FIRST PLACEの空間にそのまま残し、吹き抜けの土間として強い印象を放っています。
狩野さんは工事中、組まれていた鉄骨の下に潜り込んで、土を採取しました。
そして、桜の古樹など木の生い茂る庭からは、落ち葉や小枝を拾い集めます。

施工している手元の写真

アトリエでの試作風景を見せてもらいました。材料を樹脂と一緒に固めてから表面を研磨して、板状にします。
まずは「収穫」した素材を、適度な大きさにカットします。「分解」ですね。その後、鉱物がベースになっているVOCフリーの水性アクリル樹脂と一緒に混ぜ合わせて固めます。

落ち葉を敷き詰めている写真
落ち葉などの素材を混ぜている写真
混ぜた素材を敷き詰めている写真

おおまかに素材の混ざるバランスを見た後(まるで和菓子の「吹き寄せ」のよう)、材料を合わせてミキサーで撹拌し、型に流し込んで、待つこと30分。見事に固まります。それをハンドサンダーで研磨していくと、徐々に現れる素材の断面……! まさに料理を見ているようなプロセスでした。

固まった素材の写真

本来は石膏のようにオフホワイトの骨材ですが、粉砕された木の葉が粒状に混ざり合い、また土が自然の色付けをして、淡いベージュグレーのような色のタイルができました。そうしてできたファーストサンプルが、冒頭の写真。

固まった素材を確認している写真
サンプルのボードを見ている写真

出来上がったサンプルに想像が膨らみます。

石壁の写真

そしてFIRST PLACEの最初の姿が生まれました。つくられたマテリアルは、大きな板から小さくカットして、空間のところどころに配置されてゆきます。

FIRST PLACEの空間自体、もともとなどやにあった土や石を壁やキッチンカウンターに埋め込み、古いふすまの裏を使い、廃棄されるはずの瓦をカットしてコラージュして床にして、と、分解と再構築によって生まれた場。そこへ、ミーレとなどやの一部を混ぜ合わせてできたマテリアルが、壁の一部に、柱の隙間に、キッチンカウンターのコンクリートパズルのピースに、顔を覗かせて。

ボードが埋められている柱の写真
ボードが埋められている床の写真

狩野さん「今回のプロジェクトに参加して、自分の役割を考えたときに、などやさんとミーレさんがいて、この場所で、建物には日本家屋のストーリーがあって、そこに、ミーレとなどやをどう結びつけるか、という部分だと考えました。などやとミーレをつなぐような役割として、ミーレとなどや、両方のストーリーを一つのマテリアルに入れ込みながら、タイルのようなマテリアルを制作しました。何しろ図面がないプロジェクトだったので、大きくつくっておいて、割りながら、その都度ちょうどよいサイズでパズルみたいに収めていきました」

などやの岡村さんは、図面はつくらず、大まかなビジョンをもとに解体を進めながらディテールを決めていきます。だからこそ、即興性と余白のある場となりました。マテリアルを担当する狩野さんは、空間の出来上がりより先行して作らなければいけないので、「図面のない」中、可変性のあるマテリアルをつくることで、出来上がりつつある空間に、さらに即興的なアクセントを添えることができました。
狩野さん「きっと、運営していくうちに、空間もまた変化していくものだと思うので、今後また埋め込む場所が増えていっても面白いのではないかと思います」 合わせて、同じ素材でトレーも。キッチンでも楽しめるプロダクトです。

ボードで固められた素材が乗ったテーブルの写真

ミーレは、家族のような存在としてビルトイン家電をつくり、長い使用に耐える耐久性を大事にしています。すぐに廃棄されるものはつくらないことは、ミーレの考えるサステナビリティの一つのあり方です。などやは、FIRST PLACEをつくる前から、都心の古い庭付きの民家を改修しながら場をつくることで、スクラップアンドビルドではない建築のあり方を模索するプロジェクトを進めてきました。廃材を生かしたマテリアルは、その両者の態度を表します。
ミーレとなどや、二つのアイデンティティを一つに合わせ、FIRST PLACEとしての息吹を吹き込むもの。空間に、やわらかに響くアクセントをもたらしています。

立て掛けられたボードの写真

GUEST PROFILE
狩野佑真 / Yuma Kano
1988年生まれ。東京造形大学(デザイン学科室内建築専攻)を卒業後、アーティスト鈴木康広氏のアシスタントを経て、2012年に独立。実験的なアプローチによるマテリアルのデザインを得意とする。錆びの過程や木材、端材や廃材を見つめ、時の経過や変化の美、多様な生態といった概念をデザインに映し出す。自身のプロジェクトが企業やブランドとのコラボレーションへと派生し注目を集める気鋭のデザイナー。
yumakano.com

文・構成:森 祐子
写真:小髙彩子(DOM SPACE DESIGN)

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