冬本番の気温の低い時期に味噌をつくる「味噌の寒仕込み」。寒い時期に仕込むのは、雑菌の繁殖リスクを抑えながら発酵をゆっくり進めるという日本の古くからの知恵。じっくり発酵させて春、夏を越え秋を待つ、時間をかけた熟成の楽しみを、今回は学びます。
発酵食で、日々の腸活
「健康の鍵は、腸。口から肛門まで(!)、体内を食物が通る道は約10m、そのうち大腸は1.5mぐらい、小腸は5-6mもあります。小腸には絨毛といって細かなひだがありますが、それをぜーんぶ伸ばすと、どれくらいの面積になるか、皆さんわかりますか?」
参加する誰もが前のめりになって想像し、笑い、メモを取っていきます。
小腸の壁は、なんとテニスコート1-2面分、実に200平米以上もあるそう。そして腸の中には、1.5kg〜2kgもの細菌がいる……善玉菌、悪玉菌、それに日和見菌がいて、悪玉菌が増えると、日和見菌が悪玉菌の働きをし始める、と。 だから、すでに多くの人がなんとなく知っている、「善玉菌を増やす」という定説に辿り着きます。そこで、善玉菌のエサになる発酵食、例えば味噌やぬけ漬けを日々摂りましょう、というわけです。
「栄養も吸収するし、バリア機能で異物から身体を守る、腸壁をきれいにしておくこと。腸の状態はメンタルとも繋がっている大事な場所です。腸の環境は、食べたものの影響も大きいから、何を食べるかがとても大事」
免疫細胞の7割が腸に集中しているという腸は、ただ栄養を吸収して排泄するだけではない、重要な器官でした。
本日の先生、寺本りえ子さんは、発酵食の力を実感して20年ほど。味噌に塩麹や醤油麹、玉ねぎ麹を自らつくり、ぬか漬けを日々取り入れて、身体は大病知らずだと言います。
「例えば味噌は、コレステロールや血圧を下げたり、ピロリ菌の抑制や抗酸化、整腸、美白にも。だから皆さん、味噌汁は一日1杯必ず。すると味噌を年間6kgは使う計算です。添加物の入っていない、大豆と塩と麹だけでつくる本物の味噌を、ぜひ身体に取り入れてください。買う場合も、原材料をよく見てね」
味噌づくりの材料(手前味噌 できあがり量1.5kg分)
大豆 乾燥300-320g(煮大豆 約660g)
米麹 660g
塩 180g
「私のレシピは、麹の量がたっぷりの贅沢味噌。乾燥大豆と米麹が1:1でつくるレシピも多いのですが、麹を増やして塩を少なめで、仕込みます」
基本的には、柔らかく火を入れた大豆を潰し、麹と塩と合わせて空気を抜いて、空気に触れないように保管、というのが基本のつくり方です。
手仕事はじめ[大豆をつぶす]
味噌は、半日以上水に浸けておいた大豆を茹でるか蒸して火を入れるところから始まります。この日の大豆は、「FIRST PLACE」のキッチンに備え付けのMiele コンビスチームオーブン〈DGC 7440 〉で蒸した大豆を使いました。スチームオーブンなら100℃スチーム設定で2-3時間、指で簡単につぶれるくらいの柔らかさになるまで、加熱します。様子を見て、足りなければ少し時間を追加します。
参加者の皆は、密封袋に入れた大豆を潰すところから。人肌より少し低い温かさの豆は、潰す手にも心地よい温度感があります。
「ここで丁寧に潰すとなめらかな味噌ができあがります。」
台所仕事は、皆で作業台を囲み、それぞれの健康の知恵や体験なども話しながら、手を動かすのも楽しみの一つ。気づけば大豆のかたちが潰れて、どんどん白さが際立つ美しいペーストに生まれ変わります。30分の作業目安でしたが、「なめらかな味噌にしたい!」という人も多く、少し長めに40分かけて豆を潰していきました。豆をあらかた潰したら、次は麹と塩を合わせていきます。
麹をたっぷり愛してあげる
[塩切り麹]
まずは乾燥麹をほぐしてから、塩と混ぜ合わせます。麹はダマになっている場合もあるので、丁寧にほぐして、雑菌の繁殖を抑える塩を麹にまとわせる。塩が麹と均一に混ざり、カビが生えたり、発酵にムラが出たりしないように。
「この作業に私は時間をかけちゃう。麹をたっぷり愛してあげる」
そう聞いて、皆の手つきが一斉にやわらかく、大事なものを触るような動きに。「なんかいい香り」「気持ちいい」という声が聞こえてきます。
そこに、大豆の茹で汁(もしくは蒸し汁)を50ccくらい加えて、素早く混ぜます。さらに均一に、しっとりするまで合わせていきます。ぎゅっと握るとかたちが少し残るぐらいになったら、潰した大豆と合わせて混ぜていきます。
[カビの大敵、空気を抜いて]
大豆のペーストと、塩をまとった麹が一つになるように、合わせる作業も丁寧に、均一に。全体が均一に混ざったら、小さな団子状の大きさにまるめていきます。空気が入らないようにしっかり握り、丸めて。
丸めた団子を、容器に詰めていきます。大きな入れ物に仕込むときは、空気を抜くために叩きつけるように入れていきますが、今回は仕上がり量が1.5kgで小さな容器なので、ぎゅっぎゅっと押し付けるように入れていきます。空気が入らないようにしっかり押し付けて、底一面を平らに埋めたら、次の一層、というように表面を平らにならしながら、容器に詰め込みます。
「表面を平らにすること、縁が立ち上がらないようにすることが、腐敗を防ぐために大事。角までキッチリ、平らに!」
厳しい寺本先生のチェックが入ります。最後、容器の内側からふち、外側まで、アルコール度数の高い焼酎やホワイトリカーで消毒をしたら、味噌の表面に分量外の塩で蓋をして、おしまいです。
自宅に帰ってから加えるひと手間や置き場所の注意を聞いて、ワークショップは終わり。
「一度仕上げたら、蓋は開かないこと。みんな気が気じゃなくてつい開けてしまうのだけど、余計な雑菌が入って腐敗のもとにならないように。10月1日まで、決して開けてはいけません」
手前味噌の発酵プレート
最後に、発酵のチカラを少しずつ載せたプレートを、皆でいただきます。麹や味噌、ぬか漬けと組み合わせると、力を最大限に発揮する食材と合わせた発酵プレートです。
塩麹をもみ込んでオーブンで焼いたチキンに合わせたソースは、甘酒ぐらいのゆるい塩麹と味噌を合わせ、深みのある味わいに。生の大根は、昨年のワークショップでできた「手前味噌」や麦味噌、豆味噌、白味噌をつけて。それに、ほうれん草とにんじんの炒め塩麹ナムル。そして、ぬか漬けはアボカドと紅芯大根の、新鮮な組み合わせ。アボカドがまるでチーズのようでした。ひと口ずつ味わいながら、油揚げと大根のお味噌汁、そしてMieleのオーブンで炊いたお米のおむすびと一緒にいただきます。
おいしい上に、身体にいい
善玉菌が好む食物繊維豊富な野菜も同時に摂って、善玉菌を増やす。腸の免疫細胞を増やす元となるタンパク質も忘れずに。味噌は、大豆からできているタンパク源でもあるうえ、発酵のプロセスですでに一部はアミノ酸やペプチドに分解されていて、消化吸収されやすいという力ある食材です。
「麹によって発酵させた味噌やぬか漬けは、何よりおいしくて、その上、身体にいい。麹から生まれる味わい深さの魅力と、善玉菌のエサになる乳酸菌などを豊富に含むという力。同じワークショップでつくっても、手がけた人や発酵させる場所の環境によって、味が変わる。それも面白いですよね。このFIRST PLACEは、古くからのいい常在菌が住んでそう」
集うことで、知識を分け合う。手を動かし、明日への活力の助けになる食をつくる。数ヶ月後の出来上がりを楽しみにする。できあがったとき、未来の自分が過去の自分に感謝するようなひと仕事になりそうで、それぞれ大事に容器を抱えながら、帰路についたのでした。
3月30日(月)には、寺本さんのワークショップ第二弾を予定しております。詳細とご予約方法は下記Peatixにてご覧ください。
イベント詳細&予約:https://peatix.com/event/4885062
イベント概要
TOUCH & TASTE FIRST PLACE
寺本りえ子さん「麹の魅力、発酵のチカラ」
ワークショップ Vol.2 | ぬか漬け
| 日時 | 3月30日 (月) 11:00-13:30 |
|---|---|
| 場所 | FIRST PLACE | nadoya代々木上原 東京都渋谷区西原3丁目19−3 |
| 参加費 | 8,800円(税込) |
※寺本りえ子さんが作られたぬか床約300gをお持ち帰りいただけます。
GUEST PROFILE
寺本りえ子(てらもと・りえこ)
フードディレクター、料理研究家。音楽活動を経て食の道へ。発酵食やスパイス料理のワークショップの開催、出張料理をはじめ、飲食店のアドバイザー、商品開発や食育にも精力的に取り組む。2021年4月より、フリースクールで食育を担当。発酵食スペシャリスト、食育インストラクター 、フレッシュスムージーアドバイザー、ホリスティックビューティアドバイザー、漢方養生指導士初級、薬膳・漢方検定取得、きのこマイスター他、食への多彩な興味を掘り下げている。
著書に『JOY of AGING』(宝島社、2015年発行)がある。最新刊『からだの中からきれいになる ぬか漬けとアレンジ発酵料理』(KADOKAWA)が2月13日に発売されたばかり。
@rieko_teramoto
写真/太田太朗
構成・文/森 祐子
FIRST PLACE について
「Immer Besser」(常により良いものを)の理念のもと、125年にわたる歴史の中で暮らしを見つめてきたMieleと、場づくりを軸に人の営みを考察し、交流ハブとしての試みを重ねるnadoyaによるプロジェクト「FIRST PLACE」。キッチンを据えた場をつくり、集い、交わり、共に未来を考える。
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