和洋の境を設けず
モダンな感覚でつなぐ


1998年に岐阜県多治見市でギャラリー「ギャルリももぐさ」を始めた安藤雅信さん・明子さん夫妻。陶作家の雅信さんと衣生活アトリエを主宰する明子さんが共に、生活工芸と呼ばれる衣食住の美しさを伝える場。築128年を数える古い日本家屋を舞台にしながら、和洋の境を設けず、モダンな感覚でつなぐ二人の世界は、遠方からもファンを引き寄せ続けています。


「ギャラリーは一般的には美術工芸の世界だけれど、ここではファッションや生活道具もアートの領域だと考え、茶会や料理会を開くことを最初から決めていました」と雅信さんが語るように、襖や障子戸を自在に操って常に空間構成を変化させ、少しずつ増改築もしながら、さまざまな催しを行ってきた「ギャルリももぐさ」。多くのゲストを迎え入れるたび、住まいの一部でもあったギャラリー奥のキッチンがフル稼働します。


キッチンは、料理が好きな家具作家で建築士でもあった友人に頼み、特別にあつらえた空間。つくりつけの収納扉を、「李朝のイメージで」と木製の漆仕上げで統一しました。特に収納扉は、栗材の表面にうっすらと手削りの跡が残る美しさです。ガスコンロは業務用のどっしりした存在感。防火壁には油分も吸ってくれる雅信さんご自身による素焼きタイルを貼り、今では炎を受けた跡も感じられ、いい表情を出しています。シンプルでありながら素材の良さがにじみ、二人がキッチンを大事にしていることが伝わります。

広めの設計でアイランド型の作業台を台所の真ん中に据え、そこにMieleの食器洗い機を収めました。ドアの面材は、収納棚の扉と合わせたこだわりの木製です。
「Mieleの食器洗い機はデザインが美しく、頑丈で頼り甲斐がある、そんなイメージは今も変わりません」と明子さん。
「Mieleは昔から憧れがあって、掃除機も使っていました。丈夫で長持ち。細かい機能は使いこなせなかったり、私には不必要だったりするので、機能がシンプルで、デザインは変わらず、そして古びないものがいい」と明子さん。
雅信さんも「私たちは夫婦ともに、質実剛健で、機能は少ないけれど壊れなくて、いつまでもメンテナンスしながら使えるものが好き。出会った頃、彼女はビートル(ワーゲン)に乗っていたんです。”国民車”という意味のワーゲンはベーシックカーでデザインが変わらない。メルセデスなど、ドイツブランドのそういう思想や哲学が好きですね」と話します。

デザインは装飾を削ぎ落としてなお芯があり、信頼性のある機能美。暮らしの中で使う道具や機械には、そういうスタイルのものが多いようです。
「ずっと古びないベーシックなもの。私たち自身、そういう作品や生活道具をつくりたいと常に思っています」
手仕事の器も臆さず
貫入の深みを味わう


明子さんは、長年使ううち、食洗機内のどこにどの器をどのように収めたら良いかというのが感覚でわかっているから、そこにきっちり揃えて入れるのが気持ちよくて楽しいそう。安藤家の食器洗い機は、雅信さんの手がける手仕事の器も、これまで難なく受け止めてきました。
雅信さんによれば、熱い料理を盛り付けたり、高温の洗浄と乾燥の繰り返しをしたりすると、器が膨張収縮を繰り返すので、徐々に器の表面の釉薬に「貫入」というヒビのような表情を生みます。この貫入は、「味わい」。本体の素地にはヒビが入らず、表面の釉薬だけの変化です。むしろ時を経て生まれるこの表情は、工芸の世界では、深みとして受け入れられています。
「工業製品の釉薬はある意味優秀で、出来映えが均一でほとんど貫入も入らない。けれど僕らは、焼成による表情の違いや貫入が入っていくことを”器が育つ”として楽しんでいます。だから釉薬も自分でつくり、幾度もテストピースをつくって、目指す表情をつくれる自分だけの土と釉薬を見つけています」
食器洗い機を使ううち、また日常使いの中で、貫入が入り、表情を深めていく器。そう考えれば、食器洗い機との付き合い方もまた少し変わりそうです。

「でも、それも使い手の好みにもよりますよね。だから、希望としては、手仕事洗浄モード、というのがあるといいですね。温度低めで洗うモード」と雅信さん。ビンゴ! 実はMieleの食器洗い機にはもともとグラスなどのデリケートなもの向けに水圧や本洗いの温度を低めに設定した「ジェントル」という洗浄プログラムがあります。昔は一部機種のみの搭載でしたが、今は全機種に搭載しています。デザインと機能の芯は大きくは変わらずとも、アジア圏のユーザー向けにバスケットに深鉢を入れやすいビン形状を採用したり、洗い上がりにドアが自動で開き、内側の蒸気を逃してカラッと仕上げる乾燥機能などの進化があることに、明子さんも「そんなことが!」と驚き笑顔になりました。
不完全の美
少しずつ、質を高めて





二人の営む「ギャルリももぐさ」は、山の谷間にあった土地を雅信さん自らが木を伐採したあと、業者さんにより土を運び込んでもらい切土を押さえるための石積みを巡らせ、盛り土を一年間寝かせ…と時間と手をかけてランドスケープを整えたのち、名古屋市鳴海から茶室のある古民家を移築して始まった場です。茶室や要所要所に松の木が用いられ、ハレの間である奥の座敷の回り廊下に幅広の欅の材がずらりと並ぶ風流な建築。全てを一気に完成させるのではなく、まずは建物、そして庭、そして居室、というように、段階を経て少しずつ。最初は家族4人のテーブルも椅子も、テレビもありませんでした。順を追って、5周年にはギャラリーにカフェを併設し、やがて家族も5人となっていた生活の場は14年ののちに別棟へ。20周年を目前に、白部屋と呼んでいるサンルームのような展示スペースを増築、25周年に2階展示室の内装を改築…と緩やかに変化しながら、その時々の新鮮なギャラリー風景を提供してきました。一気に新しくするのではなく、変化を積み重ねて、少しずつ新鮮なカケラを集め、質を高めていく。未完成の美学。安藤さん夫妻のこれまでに、Mieleの「Immer Besser(常に、より良いものを)」とも重なりを感じました。



PROFILE
安藤雅信さん
陶作家・ギャルリももぐさ主宰。1957年岐阜県多治見市生まれ。武蔵野美術大学彫刻学科卒。和洋問わず使用できる3000種類以上の日常食器と茶道具、結界シリーズなどの彫刻作品を制作。国内外で作品展、そして新しい茶の湯としての茶事や交種茶会を行う。
Instagram @masanobu.ando
安藤明子さん
衣生活アトリエ主宰。1965年兵庫県西宮市生まれ。「古今東西の布を用いて、年齢性別体型問わず、長く着られる定型の衣服」をコンセプトにした「百草サロン」ほか、衣服や布製品を展開。テキスタイルデザイナーとのコラボレーションにより様々に楽しめる世界観、自在な重ね着とスタイリングを提案。
Instagram @akikoando_
ギャルリももぐさ
momogusa.jp
文・構成:森祐子
写真:馬場晶子